E=mc²の島
駒田隼人
そのように動くから、翼を羽ばたかせることをすると、飛翔した。地から足が離れて土埃が気流に沿って舞った。土地から土地へ、おのれの身体を運ぶものがあった。
宮中で羽ばたくことをやめると、身体は風に流されながらゆるやかに落下をしはじめる。羽ばたくと落下は止む。そのようにしながら流されたほうににその都度方向を変え、飛び続けた。飛ぶことは、ある方向にいくことだった。結果的にそうなっていた。因と果のどちらもが飛ぶことだった。
やがて動きは重みを伴うようになっていき、羽ばたくことが痛みを呼び起こすので、羽ばたくのをやめることのできるよう、いったん地に降りた。実際には電線だったが、結局は地だった。そこに止まり、休むことをした。休んでいる間に風はともに流れるものから一方的に流そうとするものにふるまいを変えはじめた。冷たかった。
羽ばたくことをしている間は羽ばたくことだけをしていたものは、羽ばたくことをやめることで、おのれが羽ばたかせていたものを見る機会を得た。その翼の内側には熱が籠っている。首はそのふところの中まで回った。そのように動かせることを経験した。あたたかさというものを知った。
しばらくは眠った。風の強弱が刺激の波を生み出して眠りを妨げた。空気が冷たくなっていく。陽は、かつてのぼっていたが既に暮れていた。空気の冷えを絶えず受け続けるものはふたたび羽ばたいた。羽ばたきはじめの身体は元来た方向を向いていたが、しかし風は元通りになるような順序ではふかない。元の土地に、戻ることはできない。
太陽を完全に見失った。空気の冷えに耐えうるべつの羽ばたきをするものが身体のかたわらを追い抜いて行った。そのような機構をあらかじめ持つから、耐えうるのだった。
ただ羽ばたくものは次第に羽ばたかない時間を増やしていき、それにつれて落下した。そうなっていく。はじめ同一であったはずの因と果にはずれが生まれはじめ、まだかろうじて羽ばたくものの飛ぶ、それは、あたたかい方向に行こうとする意思だった。
無軌道に風が身体に及び、方向を失う。著しいエネルギーの変換があり、あり続ける。身体の内側と外側の区別がまずなくなり、その次には本当に内側も外側もなくなった。落下は終わったのだった。それでも変換は行われる。
風は永遠にふくものだった。あたたかい方向に行こう。