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しろい森
奏端いま
録音テープが揺り起こした火の
記憶が喉元までくる
戸棚からきえていた器のあとに
置かれるようになった 声
の整然は
みずを汲みに出て行ったきみの
脊椎の骨だった
降り立てば失いつづけるような
かたい瞼だったろう、きみの
みずはきみのために粒をなしてゆく
わたしに浴びせられると蒸気を上げて
辺り一帯をしろい夢に包みこんだ
羽ばたこうとする番を
紙面へと打ちつける
音/ここには水がない
これ以上、離れていかないように。
読める文字から狂いだす、
だれとでも繋がれる通信世界で
目のまえのきみを解読できないこと
長生き。などと呼ばれて早ま
ったりもできずに
長い間、
この手はあいています。
帰るひとのいない帰り道を
鬱蒼と隠すのが森だから
わたしにもきみの産毛が生えて
わたしを果てしなく濾して 越して
腰かけた枝から二度
目のきみを朽ちることも、
たやすく錯覚できた
ここには水がない/ここにはきみがいる
行方のない飛翔は
どこまでも飛翔として。
濡れた体のまま、凍てついた産毛のなかを歩いた
国と国
都市と孤島
産道というトンネルもなかった
灯がともるまでの時間
すべての生きものはおなじところにいて
思い思いにした息が時々重なりあった
ま
ばゆさにひるむだろうね、
と笑いながら
獣の唾が
脳を焚く
だ
いて――
録音テープが巻きなおせなかった記憶が
喉元までくる
わたしが焼かれた煙のなかに微量に含まれたきみ。
の遺伝子が吸い込んでいっただれかの
ひと欠けをしろく狂わせて
しろく、密生してあ
とをつける
みえないところで
内から割られてゆく鏡の
粉々/
ここは
海
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