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路地裏の生態とふりだし

桜庭千景

 はじめに
 路地裏は我々にとって身近な存在だが、その生態はあまり明らかになっていない。そこで今回は、今後も長い付き合いになるであろう路地裏について、改めて調べ、研究していく。しかし、ここでいくら考えを述べようとも、我々はそれを完璧に知り得ることはできないだろう。つまりこれから述べるものは、お遊びのようなものである。それでもよければ、どうぞおあがりください。

一、特徴
 建物と建物に挟まれているものが、ほとんどである。中には駐車場や空き地と隣接していることもある。薄暗い場所もあれば日が差しこむ場所もある。しかし、路地裏という言葉のイメージは、黒猫が好むような暗く薄汚い路地である。ひとつすすむ。

二、習性
 路地裏はまれに自分から人を呼び込むことがある。呼び込まれた人は、適当な理由で路地裏に入り込む。招かれた人間は路地裏の気が済むまで内部を迷い続ける。食虫植物のように狡猾である。しかし、路地裏の習性は人を招くことではない。路地裏という役割を果たすことこそ、本当にして唯一の習性である。ふたつすすむ。

三、分布
 どこにでもあり、誰にでもある。一回休み。

四、種類
 一本道のものもあれば、複数の道が入り混じっているものもある。路地裏が無数にあるように、その種類もまた無限にある。多くの場合、人は目的地を目指すための道中として路地裏に入るだろう。単なる道に入口と出口を作るのだ。しかし、それ以外の目的で路地裏に入り込む人もいるだろう。本来なら入る必要のない道に、好奇心の赴くままに入り込んでしまうのが良い例だろう。そういうときは入口が出口となる。見物客の帰り道になる路地裏もまた、路地裏である。みっつすすむ。

五、生息する生物
 野良猫、野良犬、野良虫。たまに野良爬虫類。定期的に野良人間の姿が見られる。野良幽霊、野良妖怪、野良神なども存在する。ふたつもどる。

六、人との関わり
 その在り方ゆえに、路地裏は人とよく関わっている。ときには話のタネに、ときにはなにかの喩えに。恐怖の象徴であるときもあれば、安らぎの終着点であるときもある。今もまた、我々は語ることによって路地裏と関わっている。けれど、路地裏の方は我々に関わっていない。我々は路地裏という概念と関わっているにすぎない。寂しいことである。ひとつもどる。

おわりに
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